目次

イントロダクション
M6 船
M1 水平器
M2 嵐
M3 ron
M4 Lake-Sagami (interlude)
M5 逆さの人
M7 to-mawari
M8 ちひろ
アウトロダクション


-イントロダクション-






Sato Ryuga(以下、R) - 一応経緯説明みたいなのしたほうがいいんじゃない?

- 3人とも武蔵野美術大学の映像学科出身で。toulaviさんが1個先輩で、Sato Ryugaと俺が同期です。それで前から仲良かったからインタビューすることになったんだけど。  色々訊いていこうと思うんですけど、「船」を出してからアルバム出そうってなったんですか?

R - そもそもユニット名を船にしようっていうのがあって。でも急に出してもあれだから、1回「船」っていうシングルの曲を出して、落ち着いてから船っていうユニットとしてアルバムを出したら熱いんじゃないかみたいな。

- ユニットのコンセプトが先にあって、曲は後から作ったということ?

toulavi(以下、t) - まったく覚えてない。

R - 曲は先にあって、別にそのときは「船」っていう名前じゃなくて……いやなんか覚えてないわ。

t - 作ってる間に雑談の中で船っていうワードが出てきて。ユニット名を船っていう名前にしようみたいなノリで決めて、そのとき作ってたやつを「船」っていう名前にすれば、もうちょっと分かりがいいかもねみたいな話をしたような気がする。

- なんで船なんですか?

R - でもワンピースだと思うよ。

t - しょうもない話だけど、俺がその頃、人と話してるときに熱いことを言いすぎてて、一週間に別々の人二人から「お前ルフィみたいだな」って言われて。なんだそれって思ったんだけど、それでワンピースのことがうっすら頭の中にあって、雑談の中でワンピースの話になったときに、「船でいいんじゃない?」みたいな。すっげえ適当につけた……。でも寝坊主いたよそのとき。

- え?

R - 3人で通話してて……。

t - そのときに「船って名前にしたらいいじゃん」「それがいいよ!」みたいな。

R - 「めっちゃいいじゃん!」ってなって。

- なんか言ってたのは覚えてるんだけど、あのとき決まったの?

t, R - あのとき決まった。

- じゃあ立ち会ってたんだ(笑)。二人はワンピース好きなの?

t, R - 全然。

t - むしろめっちゃ舐めてる。

R - 読んではいたけどね。

t - 読んではいた。でも60巻とかまでしか読んでない。

- 名前決まった通話のときに、もうちょっとなんか言ってた気はするんだけど……。「みんなを乗せるぞ」的な……。

R - 熱いことは言ってた。

t - 熱いこと言ってた気がするけど、今同じことを考えてるかというとまったくそうではない。

- (笑)。

t - ただその場で熱いことを言おうっていう、いいことを言いたいだけの状態になって、すごいよくあるいいことを言っただけだったと思う。

R - お互い無職だったじゃんあのとき。

t - 無職だった。

R - 俺大学卒業したてでふわふわしてて、二人でぽわ〜みたいな感じで曲作ってDiscordで話してて、ほんとお花畑みたいな感じだったから、そういうことしか言えなかったみたいな。

t - 漠然としたいいことを言うみたいな。

R - 漠然としたいいことしか言えないみたいな状態だった。

t - たしかに俺がルフィ状態だったときって、ただ無職だったっていう……無敵だっただけなのかもしれない。

R - 「水平器」「嵐」までは無職だったよねたぶん。あのときはまだそういうバイブスだった。

- その2曲が最初の方にできた?

R - そうそうそう。だからあの曲順は結構時系列。

t - 「水平器」「嵐」は繋がってるんだけど、あれは時系列順にやってるから繋がってる。

R - 最初に一緒に作ったのがシングルの「船」で、「水平器」「嵐」の順だね。

- 船っていうユニット名や曲名もそうだし、「ちひろ」は電車の曲じゃないですか。移動手段が好きなのかなみたいな。

t - 船っていう名前が決まったときに船のことはいっぱい考えたんだけど……。龍ちゃんと共有できてるわけではない自分の話になっちゃうけど、僕はもともと自分のソロで「家」っていうのをずっとテーマにして作ってて。ざっくり言うと、内と外みたいな。家の中があって、外があるっていう対応軸のことを考えてたんだけど。それで外に出ていくっていうことを考えると、やっぱ移動が間に挟まってくる。そういう位置付けとして、船とか電車みたいなことは考えてたかな。外に向かっていく意志みたいなことが、船とか電車みたいなワードの中に入ってる感じ。

- プレスでも言ってたよね。「シーンへと踏み込むべく、奥底に眠っていたポップネスを解放した」。

R - 酷いよね。

t - 酷いってなんだよ(笑)。俺らが書いたんじゃなかったのかよ。

R - 言い過ぎだよね。

t - 酷いとは言ったけど、結構そう。ゲームに乗るみたいなことは考えてた。ヒップホップのゲームとか、ポップスの商業的なゲームみたいなものは音楽の中にあるけど、それに対して乗ってみたら面白いんじゃないかっていう。自分たちは無職だし引きこもってる状態だけど、そこに乗り込んでいく意志みたいなものを持つべきなんじゃないかっていうことは、船をやるときに考えてた。

- それは船をやる前から思ってたんですか? やっていくうちにそう思った?

R - 俺が「ゲームチェンジ」ってずっと言ってたんだけど(「ちひろ」の項も参照)、toulaviに「でもそれは、ゲームに乗らないとゲームチェンジできない」って言われて、いやそうだよねって思って。だったら一緒にゲーム乗らない? みたいな。だから船でしょっていう。

t - そんな熱い会話があったっけ……。

R - (笑)。要約するとこういう感じだと思う。

t - 龍ちゃんがゲームチェンジって言ってたから、ゲームっていう発想とか、船みたいな発想に繋がってった部分はあると思う。
 もうひとつ、同時期にOne Boiling Pointとsafmusicに出会ったっていうのが、大きい方向性を決めた要因でもあるなと思う。そのときsafさんが「J-POP 2.0」を標榜した「MASTERPIECE」を作っていってた時期で。safさんがあれで言おうとしてたことって、船のマインドに割と近いところがあるというか。本気でポップスに対して取り組むっていう意思表明みたいなアルバムなのかなって勝手に思ってるんだけど。
 

 


R - safさんとちゃんと話す機会が増えてから、かなり方向性が定まった感じはある。「船」のデモも、OBPとsafさんにも聴いてもらって、「ポップスにするんだったらもっとハイ出したほうがいいんじゃない?」とか……。

t - 「toulaviのボーカルをもうちょっとでかくした方がいいんじゃないか」とか、そういう話はした。

- そこまでちゃんと言ってもらってたんだ。

R - その流れもあったから「庭 niwa」から出すってなった。

t - 最終的にはそうね。でもなんとなくそのときから「庭 niwa」いいなっていうのは思ってた。
 プレスとかに書いてる「オルタナティブ」っていうワードとかも、最初に言われたのがsafさんからで。「緑の太陽の空間」っていう俺のアルバムをsafさんが聴いてくれて、めっちゃ褒めてもらったんだけど、そのときに「オルタナティブとして物凄く良いアルバムだ」みたいなことを言ってくれたの。自分でオルタナティブっていうワードを意識したのが、そのときが初めてで。そのアルバムもなんなら、ポップっぽい歌ものに挑戦しようみたいな意志があって作ったやつだったから、僕みたいな訳わかんないやつがポップスを目指すと最終的にオルタナティブに回収されるんだなってそのとき思って。そのsafさんに言われたオルタナティブっていうワードとか考え方が、船に持ち込まれてる感じはする。だからめっちゃsafさんに影響されて作ってるアルバムなんだよね。

R - 「ちょっとシャバいこともやったほうがいいんじゃない?」的なことを言ってくれて。それはほんとそうだなと思って、色々考えが変わった部分はある。

t - シャバい曲を作ろうってことでは全くなくて、「スカさない」みたいなことっていうか……。ちゃんと真摯に向き合うと、結局シャバい部分も出てくるよね、そこを引き受けないといけないよね、みたいな話なのかなって俺は思ってる。

R - 恥とか……。

t - そうそうそう、恥ずかしいけど、ちゃんと向き合うっていうのは恥ずかしいことだから。

R - だから今回、今までの俺たちからしたら、ちゃんとプロモーションとかも練ってやったし。

- toulaviさんは今までのアルバム、出す3日前とかにTunecoreに登録してたじゃないですか。プレスとかも出さずに。

t - (笑)。そうだね、だからちゃんとプロモーションしたのは初めてかもしれない。

- やってみてどうでした?

t - いやでも俺なんもしてないなって感じ(笑)。龍ちゃんがすげえ考えてくれてて。「こういうことちゃんとやった方がいいと思う」みたいに言われて、たしかにって。

- Sato Ryugaがプレスとかめっちゃ考えてる?

t - 一緒に考えはしたけど、最初に「これをやろう」みたいに言ってくれるのは龍ちゃんが多かった。

- 二人の役割を船に例えるなら、toulaviさんがエンジンで、Sato Ryugaがオールみたいな……。

R - どういうことですか?

t - どうした?

- ごめんなさい。いいこと言おうとしちゃった。

R - 言い方あるやん、俺が航海士で、toulaviが船長とかさ。なんで船の構造の話なんだよ。

t - 言ってることはわかるけど。エンジンあったらオール要らんし。

- (笑)。

R - だし、多分オールの船じゃないんだよね。

t - 俺その時々によって変わってるんだよね、イメージが。

- 始めたときはどういう船だったんですか?

t - マジで海賊船みたいな船のことをイメージしてた、木造の……ドォーン! みたいな。

R - ゴーイングメリー号みたいな。

- 今は?

t - 今は……小舟みたいなのに乗って、オールでシューッみたいな。

R - 別々だしね、船が。

t - そう、やりながら思ったの。俺らは1個のでかい船に乗ってる感じじゃなくて、小っちゃい舟が2艘あって、舟は違うけど同じ方向に進んでるみたいなイメージを、途中からするようになった。

- 今は並走してるけど、いずれ分かれるかもしれないし……。

R - ワンピースに辿り着くかもしれないし。まあグランドラインは越えたかな?

t - グランドラインて何なの? よくわかんないんだけど。

R - よくわかんない。グランドラインなのか?

t - やめようワンピースの話。ボロが出るから(笑)。



-M6. 船-



- リファレンスのプレイリスト聴きまして。「Hyper-ballad」から引用してるの?

t - 「Hyper-ballad」はね、あれ山に住んでる女の人の話でしょ。

- あ、そうなんですか。

R - 山からいっぱい落とすみたいな。家の家具とかを山からどんどん落としてくみたいな感じなの、歌詞が。それを俺がめっちゃ面白いってトウラビに言ってて。

t - 山から下りるみたいな話があって。それは龍ちゃんから話したほうがいいかもしれない。

R - 大学の時の先生に、卒業してから、ちゃんと下山をしたほうがいいよっていう話をされて。そのときはあんまよくわかってなかったんだけど、要するに、今までやってきたことの整理をしたほうがいい、みたいな……。やり残してることだったり、そういうことのかたをつけたほうが、次に繋がるっていう話があって。それで「Hyper-ballad」の歌詞とも勝手に通ずるところがあったし、「船」を作ってるときのバイブスともリンクした、みたいな。

- ワンピースともリンクしてるね。

R - そうなん?

- グランドラインに入る時、山登らなきゃじゃん、一回。

t, R - まったく覚えてない。

- 山登って、山下りた先がグランドラインみたいな。

t, R - へー。……(笑)

R - でも、マジでそういうバイブスだった、そんとき。

t - その話聞いてすごい面白いなと思ったし、新しく物事を始めるときに、一度表明として、今いるところから離れるみたいなことがあるなと思ったから、「山を下りる」っていうことでそれを(曲として)言えるかもなっていうことは考えてた。アルバムだと位置が最終的に6曲目になったけど、当初は一番最初の曲にする予定だったから、そこから船の話を始めようっていう態度表明みたいな部分もあって。

- 1発目が、山登る話じゃなくて山下りる話なのが面白いなーと思った。

R - まあ、船だしね。

t - 山の話はしたかった。僕がそのとき山登ったりしてたから、山熱が高まってるときで。下山するってことは、海に向かっていく、下の方に降りていくっていうようなことは思ってたかな。

t - 山の話なのに、捨てられた船の話をしてて、それはなんでかっていうと……船頭多くして船山に登るっていうことわざがあって。いっぱい船員を集めて何をやるかってなったとき、海に行くんじゃなくて山に登っちゃうみたいな。何してんねんみたいな、そういう言葉なんだけど。これは百年の孤独のほうでも思ったことだけど、なんかいっぱい人が集まって一緒に曲をやるっていうことで、期待してるものと違うものを出すっていうことがよくあるなと思ってたの、そのとき。ソロワークじゃなくて、チームみたいに集まった人たちが、全然思ってたんと違う方向に行っちゃうことがあるなと思ってて……。だから山に捨てられた船があるっていう話をしたんだけど。

R - 残骸がね。

t - そう、その誰かが山に持ってった船を使って山をバーッて下るみたいなイメージが俺の中にあって……それを歌詞にしてる。

R - ある意味その……引き継ぎじゃないけどさ、偉そうに言うと。ポップスをやるみたいなところで、その意思を汲むみたいな意味もある。

- なるほど。音楽の今までの歴史のなかで、誰かが持って上がった船を下ろすというか…。

t, R - そうね。

R - そこまで行って下りれなかった人もたくさんいるはずで。そこで朽ち果てちゃった人もいるわけじゃん、たぶん。

t - 僕は山をひとりで登るのが好きで。すごく孤独なんだよね。人がいなくて、社会みたいなところから離れてる場所で、すごく気持ちがいいんだよね。で、孤独っているっていう点では、家にいるのと山に登るのってすごく近いことな気がしてるんだよね、まったく逆のようであるんだけど。逆に、海に出るっていうことは、すごく広いところに出てくってことで。ポップスに行くっていうのが海に行くってことで、ソロで高みを目指すみたいなのが山っていう対応が、そのとき僕の中にあった。で、ひとりでずっとやってると、すごく自家中毒みたいになる部分もあって。自分だけの高みに行っちゃうみたいなこともあるなって。それがチームでも起こりうる。ユニットとか組んだけど、山に行っちゃうみたいな。そういう、なんか思ってたんと違う方向に行くみたいなことは避けたいなと思ってたから、むしろ海に向かっていく意思みたいなのを言いたかった。





- toulaviさんはどうかわかんないけど、龍ちゃんは結構ジャンクなものも好きじゃん。めちゃくちゃ音楽ディグってて、普通の人だったら全然聴かないようなアルバムも通しで聴いて、「この曲だけいいんだよね」とか言ったりするから……。そこに眠ってるポップスネスみたいなものを回収して、自分のものにしてるみたいな、そういう意味合いもあるのかなって。それが、「残骸を使って山を下りる」みたいな歌詞とも繋がるなと思った。

t - 「ありえなかった未来を考える想像力」みたいなものが僕ら二人には共通してあると思ってて。Vaporwaveみたいなものを割と二人とも通ってて……あれも、ありえなかった未来を想像するっていうことで。過去の、誰も見向きもしなかったゴミの中から、未来を創るなにかを取り出すっていう考え方は、二人に割と共通してある部分なんだけど。あの歌詞は僕が書いたから、そこまで意思疎通できてたかはわからないけど、確かに言われてみると、共通してる部分を取り出してるかなーとは思う。

R - それはこの曲に限らず、普段もめっちゃ話してることで。なにか作る上で、絶対根底にある思想っていうかさ。

t - 俺たちの中から新しいものを創るっていうよりかは、古いものの中から光ってるものを探して、新しく解釈し直すみたいなことしか、もうポップスにおいて新しいものを創る手段はないかなって俺は勝手に思ってるところがあって。そこはすごく共通してる部分だなと思う。



-M1. 水平器-


t - 最初、2曲目を作ろうってなって、龍ちゃんから〜〜(歌う)っていうネタが送られてきて(楽曲0:13あたりから入ってくる音)。それがすげえ「おっ!」と思って。そのネタを際立たせたいなと思って、そのときギターを使った曲を作るのにハマってたから、なんか弾いたらいい感じになった。

- あれは実際弾いてる?

t - 僕が弾いてる。

- あ、ギター持ってましたっけ。

t - 持ってる。めっちゃめちゃカスい、貰いもんの貰いもんみたいなやつだけど。それで弾いてるかな。俺が龍ちゃんのネタを聴いたときに、「人生の楽園」っていうワードが突然降ってきて。なんか「人生の楽園や!」と思って、人生の楽園みたいなものを作ろうと思ったらああなってしまった。

R - それはマジでよくわかんない。

t - 俺も「あれ?」ってなったんだけど。でも「人生の楽園」は、そのあと「ちひろ」とか「逆さの人」とかを作るときに有用なワードになった。

R - 俺は未だによくわかんないかも「人生の楽園」。

t - なんかね……クラシック感というか。言い方が難しいんだけど、おじいちゃんおばあちゃんみたいな感覚というか。そういうなんかいなたい感じみたいな……。

- 途中からめっちゃエレクトロになるのはどっちがやったんですか?

t - あれ龍じゃない?

R - うん、俺。最初の声ネタも俺の声。高校のとき適当に発狂したやつに、オートチューンかけてる。同じ頃に録ったやつを自分のサンプルパックとして、他の曲でもめっちゃ使ってて。エレクトロっぽくなるとこも、同じ頃に作ったサンプルパックから引っ張ってきてる。

- 水平器とは?

R - 俺もよくわかんない。

t - 現場とかで使うような、水平とるためのやつ。僕がイメージしてるのは蛍光黄色の、間に泡があって、それが中心にきたら水平になるっていうやつなんだけど……なんでなんだっけ? 俺が多分出したんだけど。

R - わかんない。最初のデモの時点で水平器って書いてあって、最後まで結局変えずに。

t - 最初「嵐」にしてなかった?

R - あ、「嵐」と繋がってたっていうか、最初は「水平器」と「嵐」を1個の曲として出す予定だったの。

t - え、そうだっけ?

R - で、ちょっと長すぎるよねってなって分けたんだよ途中で。

t - まったく覚えてないけど、そうね、もともと繋がる構成はあった。思い出したけど、そのとき思ってたのは、追っ手から逃げてる感じがやりたいなと思って。「ノーカントリー」っていう映画があって、あれ麻薬絡みの金を盗んだ主人公が、殺し屋から逃げるっていう話じゃん。ああいう曲を作りたいなと思ったの。なんかこう乾燥した、アメリカのだだっ広い荒野みたいなところを想像しながら作ってたかな。

R - そうなんだ。俺は普通に海だと思ってた。

t - まあでも、そういう、平たいフラットな空間みたいな感じだよね。

R - 俺のイメージは、上陸するみたいな感じ。急に別の文化が入ってくるみたいな……。まあでも面白いよね、ラップだったら各々が別々のことバースで歌うとかあるけど、歌詞じゃなくてトラックでそういうのを言うみたいなのが。それが一緒にトラック作ってる面白さなのかな。

- 別々の情景を見てるけど、一個のトラックを作ってる。

R - トラックの音のキャラクターで何かを伝えてるっていう。

t - 俺は無意識にそれをずっとやってるタイプなんだろうなって思ってて。それに気づいたのは船やってからだな。

R - 俺もそう。

t - それはつまり美学ってことなんだけど、俺の中の。手触り感というか。それを表現したいんだなっていうのは思った。

- 二人ともかなり情景系というか、トラックを作ったり、歌詞を書くにしても、絶対情景が見えてると思うんですけど。

t - でもね、俺2、3年前までまったくなにも見えてなくて。曲聴いて映像が浮かんで、それをイメージしながら書いた歌詞なんですみたいに言う人結構いるけど、俺あんまよくわかってなくて、それが。それを意識してやるようになったのが船からだったかもしれない。

R - 俺は情景っていうより作画に近いかもしれない、漫画家とかの。例えばめっちゃエレクトロみたいな感じだと、弐瓶勉みたいだなと思う、タッチが。もちろん具体的な映像は映像であるんだけど、トラック作ってる時点では、ペンで描いてるみたいな、筆跡っていうか……そういうニュアンスに近いかも。

t - それはあった、俺も! 前々からその感覚はある。でもそれと情景はまた違うよね。

R - そうね、結果的にできたものみたいな感じかも、情景は。

t - めっちゃわかる、確かに。

- 最終的な完成図は見えずに線を引いて、その結果情景ができてるみたいな。

R - でもなんか、章みたいな感じもある。曲の展開で、ここは物語の序章で、中盤、クライマックスみたいな……。俺は曲として1個の絵を描いてるっていうよりかは、ストーリーに近いところもあるのかも。

t - タッチの話はめっちゃ納得した。俺、船とか百年の孤独をする以前って、マジで何も考えないで作ってた、曲を。DTMってフローがあるんだよ、これをこうしたら次こうするっていうワークフローが明確にある。で、それをなぞってるに過ぎない、俺が曲を作るっていうことは。だから、ここではこのペンを使おうとか、ここは敢えてこれで行ってみようかなっていう、画材みたいな部分でしか今まで俺は考えてなくて。ただ、その画材を使うことによって生み出される効果みたいなこととか、情景でもいいんだけど、それを思うようになったのは船からだな。

- 今までも画材は使い分けてたけど、それは気まぐれに、ここはこれでやってみよう、みたいな感じだったのが、意図して効果を生み出すように使うようになったっていう。

t - そうだね。それをちょっとずつ掴めてきてるなーっていうのは、船をやって思った。



-M2. 嵐-


R - これはトウラビの曲だよね。

t - 80パーセント俺が作った。

R - 俺はドラムマシンちょっと入れたりとか、声ネタ入れたぐらい。

t - 中後半ぐらいのところで、909のリムとかが左右にグワーッて振られてる、めっちゃフットワークっぽいところ(2:45あたりから)は龍ちゃんがやってくれて。マジでかっこいいあれ。

t - これは本当に何も考えないで作った。さっきの思考に至る前に作った曲だから、マジで何も考えてなくて。

- 曲順を見ると、だんだんポップになっていってるよね。「水平器」「嵐」は完全に二人の尖ってる面が出てるというか。

t - そうね(笑)。まだ定まってない。多分逆なんだよね普通の曲順と。最初尖ってるのにだんだん広がっていくっていうのは。それは結構時系列に沿ってるからで。だんだんわかっていってるっていう。


R - 「嵐」は、マジで嵐が来るぞみたいな感じにしたいよねって言って作った。アルバムの中の嵐の状態。

t - 俺は「水平器」との連続を考えてて、アメリカの荒野、かつ船ってことを考えたときに、連想ゲームで「インターステラー」を思い浮かべて。一番好きな映画なんだけど。宇宙船が発射していく感じが抽象的な意味での嵐っていうか、スペクタクルっていうか。物語が移動する感じを出したいなと思って。「エスケープ・ヴェロシティー」っていう歌詞があるんだけど、それは脱出速度っていう意味で。ロケットが外宇宙に飛び出すために必要な速度っていうのが決まってて、それで脱出するっていう……外宇宙に出ていくみたいな。DTMやってる人だとヴェロシティーって聞くと音の強弱だと思っちゃうんだけど、あれは速度っていう意味。

R - この歌詞は寝坊主から知った。

- え?

R - 寝坊主がトウラビに「歌詞見たいです」って送って、トウラビから寝坊主に送られてきたDiscordの画面見て、初めて歌詞知った。

- (笑) 歌詞送らないの?

t - 送ってなかった。

R - 俺も気になってなくて。

t - 興味なさそうだから(笑)。

R - いや全然興味あるんだけど(笑)、まあ別にいいやってなってて。だから出す2ヶ月前とかに知った。

t - まあ俺のスカしてる部分を尊重してくれてたっていう。この曲は、俺結構気に入ってるラインがあって、「千の船の絵に描かれた千の海」はめっちゃいいこと言ったなと思った。船を始めたときに、Art Wikiっていうやつがあって、それで「船」って調べると、古今東西の船が描かれた絵が出てくるの。俺それで、多分300枚ぐらい見たの、船の絵を。

R - 暇すぎる。クソニート。

t - いや(笑)、電車乗って暇なときとかだよ。多分そんとき俺バイトしてたよもう。で、見てて、「全部に海が描いてあってワロタ」みたいなこと思って、書いた。








-M3. ron-


R - これは結構俺っぽいよね。

t - めっちゃこれ龍だと思うよ。70パーセントぐらい龍ちゃんって感じ。

R - 途中に入ってくるシンセ(1:13ぐらいから入ってくる音)、「Vital」っていうフリーのシンセの、一番最初に出るプリセットの音にリバーブかけてるだけなんだよ。

t - めっちゃ単純なノコギリ波。

R - 超シンプルSAWでぶち上げるみたいな。それを聴かすために作ったみたいな感じ。

t - イントロの部分は元のやつとかなり変わってて、俺が引き立たせるためにかなり苦心したんだけど。〜〜(歌う)っていうリフ(0:38からの音)は、龍ちゃんが送ってきたバラライカっていう楽器のアルペジオのリフの中から、俺が良いところをつまんで作った。

R - 最初は、みんな船の上で踊ってるみたいな感じにしたいなと思って、久石譲の「千と千尋の神隠し」の曲……「あの夏へ」かな? ……と同じコードを、ギターみたいな楽器で弾いたやつを送ったの。それで「ちょっとなんかダサいわ」ってなって、ごちゃごちゃってなって最初の原型できて。

- 歌詞が無いのは意図的?

R - なんかラップ入れようとしてたよね?

t - 入れようとしたけど、やめたんだよね。

R - 俺がラップしようと思って、1回入れたんだけど、なんか多分あんま……。

t - なんか二人ともあんま上手くいってないねってなって、これはインストでいいかもねってなった。スーパーソーがあるから、ソーのガン! っていう感じを押し出していきたいっていうのと、その裏で鳴ってるドラムがかっこよかったから。インストで、ダンスミュージックじゃないIDMみたいな……リスニング的に聴けるダンスミュージックみたいな感じでやってこうってなった。

R - 個人的には、昔、家にあるピアノで適当に白鍵だけ弾いたやつが使われてるのが好きです。

t - アウトロのいっちゃん最後に鳴ってるやつがそう(2:55あたりから)。「ron」は頑張った。俺は結構2番目くらいに頑張った。

R - ミックスすごい上手くいってよかった。

t - 最後の方に俺が入れたベースがあるんだけど、それがめっちゃ綺麗に聞こえて良いミックスなんだよね。

R - ありがとうございます。ナイスベースでした。

t - ありがとうございます。当然ですよね。



-M4. Lake-Sagami (interlude)-


t - これは砂原さんの「747 DUB」って曲があって、それを一緒にYouTubeで曲聴こうってなって聴いてるときに……。

R - 俺が高校のときめっちゃこれ聴いてたよってなって。

t - 砂原さんとかの時代の、なんかちょっと渋谷系っぽいって俺は思うんだけど……。

R - その系譜はあるよね。

t - そう、ちょっとオシャレなハウスとかテクノみたいな。

R - ヒップホップ的なビート感。

t - そうそうそう。ゆるいヒップホップみたいな、トリップホップ的な感じを俺はやりたかった。箸休め的にそういうの入れたいねみたいな。

R - これはマジで秒で作った。

t - 一緒にDiscordで通話しながら、ばーって作って、ほぼそのまんま出てる。

- これは役割的には?

R - トウラビがビート打ってて、俺が適当にシンセ弾いてみたいな……。

t - あと、ダウンサンプリングするエフェクトを入れたピアノを入れると、ちょっと砂原さんっぽい感じが出るなと思って、そういうガビッとした古い感じのピアノの音を入れたりした。……これはね、曲っていうよりかは、タイトルが何故「Lake-Sagami」なのかというと、ジャケとアー写を撮ったのが相模湖なのよ。寺﨑知喜っていう……。

- 寺﨑も、Sato Ryugaと俺と同期で。

R - いつもありがとう。

t - いつもありがとう。

- 俺もMVでカメラ回してもらったりしてて。いつもありがとうございます。

t - ほんと気の良いやつって感じで。彼と3人で相模湖に行って撮影したんだけど、そのとき「相模湖良いなあー!」みたいになって、たまたまそのときに作ってた曲だったから、相模湖っていう名前をつけたいってなったんだよね。





photo: 寺﨑知喜 edit: Sato Ryuga



- 次の「逆さの人」と繋がってるけど、「漕いでいく腕を動かしてみる」って言ってるように、湖でボートを漕いでるイメージが思い浮かんで。そこの繋がりは意識した?

t - そんなに意味合いは考えてないんだけど……。最後、ラジオの音が波の音ににゅーって変わっていくところがあって、あんま上手くできなかったけど。あれはなんか情景を想像したな。

R - あれが「TAKESHI’S」っていう映画のシーンと似てて、俺すごい好き。「TAKESHI’S」かな……ちょっと合ってるかわかんないけど。ソナチネかなんかのパロディを自分の映画の中でやるんだけど。なんかそれのイメージがある。

t - 俺が2026年1月1日の0時くらいに、じいちゃん家にいたんだけど、おじさんが昔使ってたラジオがあって。それをぐるぐるぐるーってチャンネル変えまくってるところの音を使ってる。たまたま女の人が「人生の余裕……」って言うんだけど(1:11あたり)、人生の余裕っていいな、欲しいなと思って、そのまま入れた。



-M5. 逆さの人-


t - 最初、僕のピアノと、ベースみたいに弾いてるギターのリフだけのすっごいシンプルな曲で、そのデモの段階で歌詞が既にできてて。でもそれをこのアルバムに入れるのは違うなみたいになって……。

R - いやー紆余曲折あったな……。

t - 一番頑張った。マジで頑張った曲なんだけど。

R - 一番難しかった。

t - 俺がずっと止めてて。マジで納得いかなくて。

R - 最初スッカスカの状態のとき、俺がとち狂って「歌おう」と思って。歌ったら、下手すぎるみたいになって。そっからごちゃごちゃごちゃってなって、大変だった。

t - うわーどうしようかなってなってるときに、ドロップで入ってくる、僕のボーカルをチョップしたやつ(1:25あたりから)を龍ちゃんが送ってくれて、これRalphie Chooっぽいなと思ったの。スペインの人で、ラテンっぽいリズムパターンを現代的なヒップホップにしてる人なんだけど。その人がMura Masaとやってる「MÁQUINA CULONA」って曲があって。それをざっくりとリファレンスにしてる。

R - 俺もそのアルバムめっちゃ好きでずっと聴いてたから、それトウラビから言われて、「あ、これしかない」みたいに結構バチッとイメージが重なった覚えはある。

t - Ralphie Chooが、ハイピッチにされたボーカルチョップみたいなのを結構多用してて。それと、レゲトンの感じをあれに足したら化けるかもなみたいなので原型ができて。

R - 結構色々あったんだよね、バイレファンキやろうとか。

t - レゲエやろうとしたり、ブレイクコアやろうとしたり。

R - かなりごっちゃになったけど、こうなった。

t - レゲトンでいくって決めた後に、最後に、いっちゃん最初のリフができて俺はめっちゃ一安心したというか……。クラヴィコードっていう楽器の音だと思うんだけど、Abletonに入ってる音源を使ってやってみたら、ちょっといなたいけど哀愁ある感じが出て。すごい満足できてる今は。

R - 俺はボーカルチョップ大好きだから、あれできて満足。あと後半に入ってる笛みたいな音(2:28あたりから)があるんだけど、あれも好き。ちょっと民族っぽい感じの。

t - これチョップでしょ?

R - いや違う違う。

t - 龍ちゃんのチョップだよ。俺の声だよこれ。

R - あれ……? まあいいや。なんかね、俺的に面白いことしたの。ピッチを不安定にしたやつにオートチューンかけてて、それでぐにゃらせてるんだけど。ちなみに「逆さの人」は、相模湖でジャケとアー写撮ったときに、俺がガッて……(バク転する仕草)。






t - 本当に逆さになるみたいな。

R - 納得いくのがあんまそのとき撮れてなくて。俺の前のアー写も寺﨑に撮ってもらってて……。

- 滑り台で逆さになってるやつ。

R - それをもう1回やろうと思って、相模湖でガッてやったら、「あ、逆さの人かも」ってなって。

t - そのときアルバムのタイトル案がまだ決まってなくて。いいのないかなーみたいに二人でいっぱい案出しまくってて、龍ちゃんがひっくり返ったから、「逆さいいな……逆さの人だ!」みたいな感じで決まった。

R - Tujiko Norikoのアルバムみたい。あとsora tob sakanaみたいな……。わかんない、適当だけど。

t - 歌詞が鏡の話をしてて。最初デモのときは「Mirror」っていうド直球のタイトルだったんだけど、アルバムタイトルが決まった後に、この曲を逆さの人にしちゃえばいいんじゃない? って言って、そうなった。

R - 歌詞ともリンクしてるよね。

t - すごいリンクしてるから、ちょうどいいじゃんって。



-M7. to-mawari-


R - これは100パーセントトウラビの曲です。

t - 最短時間で作りました。

R - 俺がトイレ行って帰ってきたら完成してた。

t - 龍ちゃんがトイレに行ってる間にギターを弾いて完成させました。

R - 1時間で終わった。

t - 夏状態。夏みたいなギターが追加されて気づいたら完成していた。

R - タイトル迷ったね。

t - 「風車」っていう名前にしようとしたんだけど、英語にしたくて。風車の英語版で「Pinwheel」とか、迷ったんだけど。

R - でも英語版はそうなってるよね?

t - うん、英語版のタイトルは「Pinwheel」になってる。最初「船」を1曲目にしようとしてたってさっき言ったけど、位置を変更して6曲目に持ってきて、その次を「ちひろ」にしようとしてたんだけど……。

- そうですね。最初は無かったよね。

t - そうそう、寝坊主に聴いてもらってたデモは、全8曲で「to-mawari」が無いverだったんだけど、うまくいってないよなみたいな。「ちひろ」の最初の部分と、「船」の最後暗くなって終わる感じがあんま合ってないなってなって、インタールード的に作った。








-M8. ちひろ-


t - 原型になったのが、最後のverにも残ってるんだけど、イントロのピアノのリフ。あれを最初龍ちゃんから送ってもらって、そこにギターのリフを僕が足してみたいな。

R - 結構アルバム制作が行き詰まって。昔のデモ曲を聴かせ合うみたいなときに、まんまあのピアノの曲みたいなのがあって、それ聴かせたら、「30年後に聴いたら泣くかもしれない」って言われて。

t - 30年後に聴いたら号泣するかもしれないなって思った。それはなんでかって言うと、ピアノの音ってすごく時代感を反映してる部分があって。昔はちゃんと録音したピアノとかをどうEQで処理するかみたいな感じだったと思うんだけど、今は音源としてピアノがあるから、結構カッスいやつはカッスいのよ。で、(龍が送ってきたリフが)MIDIのピアノだなって感じがして、それはそれの良さがあるんだけど、今のDTMで一番カスいピアノみたいな……標準で入ってるカスいピアノみたいな音源を使ってたの。それはすごくピュアに今の時代を反映してる音だなと思ってて、30年後に聴いたらマジで懐かしくて泣いちゃうだろうなと思ったんだけど、今聴いても判断が難しい部分で……。それをそのまま出すのは、なんて言うんだろう……もったいないなって思ったから、今の表現でも伝わるような感じにしたいなと思って。ギターを……あれもすごくカッスい音源なんだけど、それをMIDIで打ち込んだやつを重ねて、よりいなたい感じにした。

- イントロのあのリフ、ギターなんだ。

t - あれはね、Abletonに入ってる、ギターを1音1音サンプリングしたやつをMIDIで扱えるっていうすごいやつなんだけど、音がめっちゃちゃっちいから、それを入れるといなたくて良いなって……。MIDIの音楽って感じ。

R - 作りながらどんどん盛り上がってった感じだよね。最初は割と原型のままみたいな感じだったんだけど、もうちょっとなんかやったほうがいいんじゃないかってなって、「Angel Beats!」の曲とか……。

t - もっとピアノでいこうとしたんだよね最初は。

R - ユーミンの「春よ、来い」とか。

t - それらの曲も今聴くとちゃっちい音源なんだけど、時代感が……今聴くと感動的な感じがする。わかりやすいのだと、神聖かまってちゃんのの子が作ってるデモ音源とかって、めちゃくちゃカスいピアノの音が入ってて、あれってすごい2010年代的なんだけど、今聴くと懐かしい。DTMやった人にしかわからない感情かもしれないが、すごく感動するんだよね。

R - DAWで使ってる音源の感じだよね。

t - 最初そっちでいこうとしてたんだけど難しくて……。なんか「名曲すぎる」感じになって。

R - 過剰すぎる。

t - 過剰に名曲な感じになってしまって。それはなんか違うなってなって。ギターいいんじゃないかと思って入れたらすごい良い感じになったから、その直後に龍ちゃんにDiscordで電話かけて「できた!!」って二人で言い合った覚えはある。

- 「sakasa no hito」が出たときに、One Boiling Pointから「ちひろ まだ見たことないアニメ 知ってた?」っていうLINEが来て。

t - 意味わかんない。

- 意味わかんなくて、どういうことですかって訊いたら、見たことないアニメの主題歌みたいで良かったってことだったんだけど。リファレンスの「Angel Beats!」の曲とか聴くと、本当にそうだなって納得したっていうか。

t - 多分、僕が根底ですごい好きなのもある。あの頃のジャンプ系のアニメのオープニングみたいな感じが好きなんだろうな。

R - 「ちひろ」でMADとか作ってほしいよね。

t - これでリゼロとか流れてたらガチで恥ずかしすぎる。めっちゃ嬉しいけど。

R - 誰か作ってくんねえかな。

t - 誰もやんねえだろ。

- いわさきちひろが元ネタなんですよね?

t - いわさきちひろが住んでたのが長野、信州っていうのがあって。で、僕が仕事で「あずさ(中央本線の特急列車)」に乗って松本に行くことがよくあって。ちひろが東京から松本まで電車に乗って帰ってるときに、曇った窓ガラスに絵を描いてて。それを見た他の乗客が「お嬢ちゃん、こっちのガラスにも描きなよ」って言って、ちひろの絵がばーって描かれた電車が走ってたっていうエピソードがあって。それがすっごい良いなってなって……。そもそも、いわさきちひろの絵を見たときに、俺が目指してるやつこれだ! って思ったの。今見るといなたい感じがちょっとあって、現代文の教科書見てるみたいな気分になるんだけど、これだってなって。「人生の楽園」とかそういう感じがして、あのいなたい感じすごいかっこいいな、表現したいなってなったときにできたのがあのイントロだったから、ちひろとの接点っていうことで中央線の話をしようかなって思ったんだよね。

- 二人とも中央線ユーザーだしね。

R - トウラビが国分寺住んでて、俺が高尾で。それで「お前高尾 俺国分寺 終着東京 ゲームチェンジ」。あれはエモい。

t - 龍ちゃんがゲームチェンジって言葉をずっと言ってて。

- ずっと言ってた。もう言ってないけど。

t - 「ゲームチェンジが必要や」みたいなことを言ってて。僕にとって、ゲームチェンジ的な発想ってすごく東京っぽいなって思うんだけど……。松本-東京間の中央線のラインをひっくり返すみたいなイメージで、僕が途中でゲームチェンジって歌詞に入れてる。

- ひっくり返すっていうのは具体的に?

t - 松本から東京に向かうんじゃなくて、東京から松本に向かうような……。逆転の感じがなんとなく僕の中にあったから、ゲームチェンジって言葉を入れれるなって思った。

- ヒップホップのニュアンスが結構強い曲だなと思って。それはどの段階で入ってきたんですか。

t - そもそものデモのキックがあれだったのかな。

R - 808のドゥーン! ってやつを入れてて。あれまんまじゃない?

t - まんまだな。だからビート感は最初から変わってないかな。ヒップホップのような……。トラップって言っていいのかわかんないけど。

R - ベースはそういう感じ。そこにトラディショナルな感じの展開がされてくみたいな。

t - ポップスっぽい展開っていうか。かなり変なことにはなってるよね。

- 二人のやろうとしてることが一番出てる曲だなって。

R - マジで半々って感じだよね。

t - そうだね。あれは50-50でやった感じだと思う。

R - 唯一俺も歌ってるし。

- Sato Ryugaが歌ってるところはどういうイメージ?

R - 高尾の中学校通ってたんだけど、完全にそこの話。高尾駅のホームとか、いわさきちひろの絵のこどもたちのイメージで……自分のそういうときの話しようみたいな。寝坊主とトウラビの「ground」のジャケあるけどさ(ArtworkにSato Ryugaの地元の写真を使用している)、あのイメージなんだよね。この曲は冬に作ってて、「並んだ紫陽花まではまだ遠いみたい」っていうのは、梅雨までは時間があるっていうイメージで言ってたんだけど、実際リリースが6月になって、リンクしたのが面白かった。

t - 龍ちゃんが歌詞書くときに、かなりコントロールして書いてるんだなっていうのがあって。「情景を飛ばしたい」って言ってあれが出てきたから、俺が書いてた中央線の話から飛ばして、すごい具体的な……読んだらみんな想起できるような、普遍的な情景に降りていった感じがあって。その落差と、ビートチェンジの落差で、すごい面白い感じになったなっていう。

R - 画が変わるっていうかさ。ギュインッて画面が変わる感じ。また別の人の話になるみたいな。

- それもヒップホップっぽいよね。

R - そうね。そういうビートチェンジとか、ラップ(で複数の人間が歌う)とか、ヒップホップでしかできない表現でもあるし。なんか映画っぽくもある。

t - 映画的な感じはするよね。龍ちゃんのあれが入ったことで、もうちょっと映像が浮かぶようになった感じはする。

- toulaviさんは、自分のこどもの頃の記憶を元に歌詞を書くことってありますか?

t - ないかもしれないな……。「ちひろ」を書いてたときは、ちひろの電車の窓に描くエピソードを想像してたけど、後半のパートとかに関しては、本当にただ希望を書きたいなって思ってただけっていうか……なにか心に残るものを作りたいとしか思ってなかったかもしれない。だから自分の記憶で歌詞を書くみたいなことはあんまりやってないかもしれないな……。僕は最近の自己判断としては、パンチラインが好きなんだなっていう感じがする。パンチラインを言いたい。

R - 「誰もがピアノを弾いていい世界がやってくる」はマジで最高。

t - ああいうことが書きたいかな。

R - 送られてきたときマジで天才だなって思った。

t - ありがとうございます。シャワー浴びたら思いついた。

R - 俺が言いたいこともそうだし、ハピネスっていう感じ。

t - ちひろが希望を描いた人っていうか……こどもたちに対して希望を託したって言うとそうじゃない気もするけど……希望を描こうと思ったらこどもを描いていたみたいなことだと思うんだよね、あの人って。だから僕もそういうふうに希望を描きたかった。僕は普段生きてて、いろんなニュースとかを見てすごく心が沈んだときに自分を救ってくれるのは、何回も言われてきて手垢のついたようなすごく単純な希望の言葉だったりするから、それを僕も作りたいって思って書いたかな。僕はすごく抽象的なところで歌詞を書いているから、それに対して龍ちゃんが具体的に情景を思い浮かべるようなことを書いてくれたから、すごくバランスがいいなって思うんだよね、全体で見たときに。

R - トラックとかのニュアンスもそうだし。「船」の808のカウベルの音とか、まんまそのネタを使うっていうヒップホップ的なチョイスを、トウラビ一人だったらしないけど、俺はそういうの入れたくなるから、そういうバランス感はあるのかもね。キャラクターとしての音っていうか、これを入れたらこういうジャンルっぽく見えるっていうのは、わかりやすいし良い反面、飛び道具すぎて危ういところもあるけど、それをトウラビが上手い具合に解釈していじってくれたりしたから、それは良かったよね。

- プレスに「名曲を作りたい思いと新しい音楽を作りたい衝動が交錯する」ってあるんですけど、toulaviさんが名曲を作りたくて、Sato Ryugaが新しい音楽を作りたいのかなって勝手に思って。

t - いや、そういうわけではない。多分、二人とも何も考えなかったら滅茶苦茶になるんだよね。「新しい音楽を」っていうのは、箸にも棒にも引っかからない……。

R - いつも通りの。

t - そう、訳わかんないやつを作っちゃうっていう衝動があるから、それをうまいこと二人で引き戻しつつやっていった結果、真ん中っていうか、オルタナティブ的なものができたなって感覚で、それを書いた。

- いつもと違うものというか、「いい曲」を作りたいみたいなのがあった?

t, R - それはもちろん。

R - 俺はやっぱ聴いてほしくて、普通に。それは前提としてある。ちゃんと売れたいっていうか。

t - 二人で作るときに、お互いが好きなことだけやってくってなると多分誰も聴かないと思うんだけど、ポップスを目指して作ったことで、元々の僕らじゃリーチできなかったような場所に届くかもしれないなってことは思ってた。まあそれはそれとして、ただ名曲を作りたいとはすごく思う、常々。

R - 俺、それは船をやってから感じるようになった。俺もやればできるじゃんっていう。
 ……でもいい曲だと思うよ本当に。一番満足したかもな、今まで作ってきた曲の中でも。

t - そうそうそう。目指してたものとちゃんと合致したっていうのが結構初めての経験だった。

R - 達成感あった。ちゃんと作ればできるんやっていう……嬉しかった。







-アウトロダクション-

- やっぱ二人とも、一番好きなのは「ちひろ」?

t, R - 「ちひろ」だな。

- 「ちひろ」以外だとある?

R - 俺は「ron」かな。

t - 俺も「ron」かもしんないな……。

R - 「ron」は単純にサウンド的にめっちゃうまくいったっていうのが嬉しい。

t - 「ron」は、最初思ってたところよりも全然すごく遠くまで行けたっていうのがすごい良かったな。すごい満足してる。あと「船」やっぱいい曲だね。

R - 「船」はいい曲。「水平器」もいい。

t - 「水平器」もいいね。「嵐」も褒められてるし。

R - 「嵐」結構好評だよね。

- 今後の予定はありますか?

R - シングル出す。年内に出したい。それはもうかなり構想があるから、あとはやるだけ。

- 結構できてる?

R - なんにもできてない。

t - 構想だけが膨らみまくってる。

R - でも多分ヤバい曲になると思う。

t - ヤバいの作りたいね。

R - アルバムと方向性は違うかもね。

t - 次はポップスじゃないと思う。

R - 今持ってる別の方向の手札をちゃんとやりきるみたいな。

t - 二人にとって初めての挑戦になると思う。

R - やっぱ挑戦だよね。

t - そうだね、「挑戦していく」っていうのが船にはあるかな。

R - 恥ずかしがらずに挑戦していくっていう。滑ってもいいから。

- 百年の孤独とは違う?

t - 百年はもっと遊ぶ感じが強いから……。それこそすごくドライブしてくんだけど。

R - ドライブしてった上でも着地させるところは明確にあるっていうか。かなり「硬い」ところに着地させるみたいな。土台がちゃんとあるところに着地させるけど、船ではそれはわからない。

t - 最終的に着地する部分がどこかはわからないが、ちゃんと意志を持って挑戦していくっていうのが百年と違うところかな。割と真逆の関係性にあるかもしれない。

R - 百年はマジで硬い。遊んだ上で硬いみたいな。

t - 百年の孤独と船がかなり同時期に始まったのが影響してると思うんだけど、それで逆の方向性になってる部分はあると思う。

R - 百年の孤独から始まったユニットだと思われてるかもだけど、元々は船のほうが先だったんだよね。リリースは百年の方が先になっちゃったけど。

- 今後の目標はある?

R - 本当の意味でのゲームチェンジ。

t - 俺は……良い人になりたい。人と関わる中で、良い人になっていきたいかな。